あたたかい。あつい。すずしい。つめたい。いろんなかぜのニオイ。
かたいじめんのニオイ。
おそらからおちてくる、みずのニオイ。
ごしゅじんさまの"やさしい"ニオイ。
たくさんのニオイをおぼえた。
わらっているオト。おこっているオト。かなしいオト。うれしいオト。
ごしゅじんさまがボクをみながら、だすオト。
たくさんのオトをおぼえた。
おひさまのしたを、あるいた。
おつきさまをみて、ねむった。
きがつくと……じめんが、とおくなっていた。おそらが、ちかくなっていた。
♪CLANNAD 10years after ~ボタン~
「ゴフーゴフー」
「ほーらボタン、こっちよ」
ごしゅじんさまのあとをおいかけて、かたい地面を歩く。
すぐよこを、おおきなものが走っている。
おおきなオトをだして、くさいいきをはいている。
あれは、こわい敵。ボクよりおおきくて、ボクよりはやい。
ボクがいっしょうけんめいぶつかっても、きっとかてない。
でも、あれはボクがあるいているところには入ってこないみたいだ。
あれのなわばりに入らなければ、こわくない。
「とうちゃーく」
ごしゅじんさまが動きをとめる。
ここは知らないばしょ。
知らないニオイがする。
「今日から、ここがあんたのおうちよ~」
ごしゅじんさまが、うれしそうなオトをだしている。すると、ボクもうれしくなってくる。
あたらしいねぐら。
ここも、おそらの水があたらない、あたたかなところだった。
「どう? 結構広いでしょ」
ねぐらの中に入る。
知らないニオイ。
ボクは体をこすりつけて、ねぐらにニオイをつけた。
*
あたらしいねぐらの外は、たくさんのニオイがするところだった。
知らないニオイもたくさんあって、すこしふあん。
ボクよりおおきいたてものがあって、ボクよりちいさいニンゲンが、たくさんあつまってくる。
ごしゅじんさまは、ちいさいニンゲンたちにたのしそうなオトやうれしそうなオトをだしている。
このニンゲンたちは、ごしゅじんさまの"カゾク"のようだった。
「はーい、みんな~。この仔が今日からみんなとお友達になる動物さん、ボタンっていうのよ~。仲良くしてあげてね~」
「は~~い!」
ボクがねぐらでまるくなっていると、ごしゅじんさまとカゾクのニンゲンたちが、ねぐらの外からボクをみていた。
知らないニオイのニンゲンたちが、知らないオトをだしている。
ちょっとこわかったけど、このニンゲンたちはごしゅじんさまのカゾクだ。敵じゃない。
「ゴフ~ゴフ~」
ボクはおきあがって、わらっているオトをだした。
「おおきい……」
いちばんちかくでボクをみていたニンゲンが、おどろいたようなオトをだした。目がきらきらと光っている。
「いのしし?」
「あら汐ちゃん、よく知ってるわね~」
ごしゅじんさまが、やさしいオトをだしてカゾクのあたまをなでる。ボクもなでてほしい。
「さわれる?」
「汐ちゃん、ボタンに触りたいの?」
「うん、さわりたい」
「よーし、それじゃあ、触ってみよっか」
ごしゅじんさまとカゾクが、ねぐらの中に入ってくる。
「ボタン、あんまり動かないでね。ぬいぐるみみたいに」
これは、動いちゃだめなオト。
ごしゅじんさまのオトをきいて、ボクは動きをとめた。
「これでよし。じゃあ汐ちゃん、ボタンの背中を撫でてあげて」
「うん」
ごしゅじんさまのカゾクが、ボクのせなかをなでてくれる。きもちいい。
やさしいニオイがした。
ボクの知っているニオイ。なつかしいニオイ。
でも、知らないニオイもする。
「……かわいい」
ごしゅじんさまのカゾクが、うれしそうなオトをだしている。すると、ボクもうれしくなってきた。
「すごくかわいい」
「あらあら、汐ちゃんはボタンが気に入ったみたいね~」
ごしゅじんさまのカゾクが、ボクのせなかにくっついてきた。
ふしぎなニオイがする。
それは、みどりのニオイにつつまれたばしょ。
ごしゅじんさまに、はじめてあったばしょのニオイ。
あたたかくて、なつかしくて、やさしくて……
"かわいらしい"ニオイだ。
――終わり。
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感想などをお題箱で伝えてくれたら嬉しいです!
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♪後書き
CLANNAD10周年記念SS第5弾、ボタンアフターでした。
猪の寿命は十年もないようなので、汐と出会う時点でボタンはかなりの高齢です。なので、今回のSSは厳密に言うと10years afterではなかったり。ただ動物には時間の概念がない……らしいので、まぁいいかな、と。
『光見守る坂道で』ボタン編を参考にしながら、成長したボタンの動物視点を自分なりの解釈で書いてみました。時間に関する言葉はもちろん「~と言った」のような基本的な文まで使えなくて短いわりにいろいろと苦労したけど、なんだかんだで初の動物視点なボタンSS、楽しく書けました。