たくさんの『思いの光』が町に舞い降りた、あの日から十年……。
長い、長い"時の流れ"と共に、町はその景色をめまぐるしく変えていった。
大きな病院の建設、幹線道路の開通……。
それはまるで、小さな子供が大きく成長していくように。
町は発展し、そこに住む人たちにとって暮らしやすいように変わっていく。
"人"の手によって、町は変えられていく。
自らが変わっていく様子を、"町"はその思いを共有する少女と共にその目で見て、その身で感じていた。
そしていつからか、"町"は夢見るようになっていた。
自分と同じ存在……この世界に広がるたくさんの町との出会いを……。
●CLANNAD 10years after ~町~
最初は隣町だった。
自分と最も近い場所に存在する、仲間。
そんな存在を、少女と少女の周囲に存在する人は"家族"と呼んでいた。
何も生まれず何も死なない……そんな孤独な世界で生きてきた"町"は、隣町の存在を知ったことで……家族と出会ったことで、共に生きる少女と――"人"と同じ感情を抱くようになった。
もっとたくさんの町に出会いたい。
もっとこの世界のことを知りたい、と。
それから数年。
夏休みと呼ばれる長期休暇を利用して、"町"は少女と共に世界を……小さな島国を一回りするように巡ってきた。
その中で"町"は仲間と出会い、そして別れる。
出会いの喜びと、別れの寂しさが、"町"を成長させていった。
そして今、"町"はもっと大きな世界……島国の渚から見えた、どこまでも続く汐の向こう側へと、少女――"汐"と共に旅立つ。
小さな鳥もいつかは大きく翼を広げて空を羽ばたくように。
"町"と少女もまた、さらなる出会いを求めて、どこまでも広がるこの空の彼方へと、その一歩を踏み出そうとしていた。
旅のはじまり……スタート地点である小さな家の空には、それを祝福するようにたくさんの光たちが踊っていた。
「気をつけてな」
「うん、行ってきます!」
父に見送られ、少女が、"町"と共に歩き出す。
その小さな体は、新しい出会いを予感した大きな期待に満ち溢れていた。
少女と、"町"の……長い、長い旅が今、始まった。
――この町と、住人の未来に……幸あれ。
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●後書き
CLANNAD10周年記念ショートショートSS第1弾、町アフターでした。CLANNAD MEMORIESにも書きましたが、私にとってCLANNADといえば町の物語です。
「光見守る坂道で」の汐編『町の思い』とリンクする感じで、こちらの世界に"町"が繋がってからの思い(この辺は人によって解釈が異なるだろうけど)を想像してみました。自分の住んでいる町の変化に思いを馳せたりしてもらえたら嬉しいなぁ、なんて思います。