「ここね……」

角を曲がったところで目に入る真新しい建物。

『Ernesto Host』と書かれた看板が見える。間違いない。

先月オープンしたばかりのファミリーレストラン。私はここに、あるものを求めてやってきた。

それの入手は容易ではないだろう。だが、そのために作戦も用意した。

私は戦いの場へと身を投じるべく一歩を踏み出した。

りえちゃんの可愛くてちょいエロいウェイトレス姿を写真におさめるために……!

ウェイトレス激写作戦

「いらっしゃいませー」

店内はまさしく戦場だった。

休日だからか、朝も早くから客でごった返している。店員たちも慌ただしく動き回っていた。

ターゲットの姿は見えないが、今日が出勤日であることは調査済み。いよいよ作戦開始だ。

「ただいま大変混雑しておりますので、相席となりますがよろしいですか?」

げっ、いきなりの誤算。もう少し後の時間帯にすればよかった。

さすがに嫌だとは言えず、席に案内してもらう。

「ごゆっくりどうぞ」

席に着き、水を一口。

相席では行動が制限される。どうしたものか。

考えを巡らせながら顔を上げる。

「ぶーーーーーーっ!」

水を吹き出してしまった。やばい。

「うわ、きたねぇ! ……って、ん? おまえ杉坂か?」

「人違いでございますです」

とっさにそう答えるが、疑惑の目を向けられた。明らかに疑われている。

こんなところで知り合いに出会ってしまうとは……。やっぱこの町は狭い田舎だわ。

しかし奥さんが働いてるところに平気で来るなんてすごいな、この人。

ちらりと視線を岡崎さんに向ける。

「おまえ、なんでサングラスしてんの?」

「ファッションです。この人もしてるでしょ。それと私は杉坂ではありませんですます」

あれ? 岡崎さんの隣の人、卒業式に来てた古河さん……じゃなくて渚さんのお父さんじゃ……

おっと、そんなこと気にしている場合ではなかった。りえちゃんは……って、渚さんっ!?

「ご注文はお決まりですか?」

注文を取りに来たのは渚さんだった。

うーん、渚さんも反則的な可愛さだ。しかも人妻属性ですよ! たまらん。写真を一枚所望したいところだ。

「俺、ホットコーヒー」

「…………」

さっきから渚さんのお父さんらしき人はずっと黙りこくっている。やっぱ娘の働くところに来るのは恥ずかしいのかな。

「この人は、チョコ&ストロベリーミックスパフェ・スペシャル」

「……」

沈黙を続ける隣人に代わって岡崎さんが注文する。それってここで一番高いメニューだ。凡人の私には手が届かない。

「杉坂は?」

「え? えーと、アイスティー……って、杉坂じゃないっす」

むぅ、このままでは作戦どころではない。

「杉坂……さん? 杉坂さんですか?」

やば、渚さんにまでバレたらまずい。

「いえ、人違いでござるでしょう」

「? そうですか……」

ふう、なんとかごまかせたようだ。岡崎さんが遠い目をしているが気にしないことにする。

「ホットコーヒーにチョコ&ストロベリーミックスパフェ・スペシャル、それにアイスティーですね。少々お待ちください」

くるりと身を翻して戻っていく渚さん。その仕草が大人の女性を感じさせる。かっこいい。

記念に一枚……とカメラを取り出そうとしたその時。

今まで静止していた渚さんのお父さんらしき人が動く気配がした。

…………。

それは人間のレベルを凌駕したスピードだった。

動体視力には自信がある私でさえ、その動きを完全に把握することはできなかった。

渚さんのお父さんらしき人はすでに動き出す前の姿勢に戻って静止している。

私は呆気に取られて写真を撮るのも忘れていた。

「気にしないでくれ」

岡崎さんがため息をつきながら言う。

気になったが今はそれどころではない。こんな状態では作戦は実行前から失敗だ。

なんとか次の作戦を……

……。

…………。

………………。

もう作戦なんてまどろっこしいことはやめだ、やめ! 真っ向勝負でりえちゃんの写真ゲットだぜ!

「お待たせしました……って岡崎さん!? と、渚さんのお父さんと……あれ?」

りえちゃんきたぁーーーーーーーーっ! 可愛すぎ!

ただでさえ可愛いってのに、この制服ときたら……もう……。

「今日はすーちゃんも一緒なの?」

ぎくっ。くそぅ、一目で見抜かれた。

「ああ。偶然相席になったんだ」

「そんな偶然はありませんでございます。そんなわけでウェイトレスさん、追加注文を」

「え? はい、どうぞ」

「ローアングルからの写真を一枚」

「…………」

あれ? なんか空気が……。直球すぎたかな?

「あー、ローアングルじゃなくてもいいんで……」

「お客様、そんなメニューはございません♪」

わっ、りえちゃんかなり怒ってるよ。あのにこにこ顔はまずい。

「や、やだなぁ。冗談じゃあないですか、あ、あはは」

「もうっ、忙しいんだからあまり時間取らせないで」

そう言いながらも、私たちの注文の品を手早くテーブルに置いていくりえちゃん。うーんらぶりー。

渚さんのお父さんの頼んだでっかいパフェを最後に置く。あれをひとりで食べるんだろうか。すごいな。

「ご注文はお揃いですか? あ、すーちゃんは追加注文だね。何にします?」

「りえちゃん一人前。お持ち帰りで!」

「…………」

あれ? なんかまた空気が……。

「何か……おっしゃいました?」

まずい。完全に怒らせてしまった。

「いえ、なんでもありませんです。はい」

「はぁっ。えと、追加はなしですね。それでは、どうぞごゆっくりお召し上がりくださいね」

呆れられてしまった。ため息をついて戻っていくりえちゃん。

これが最後のチャンスだ! 逃したらもう機会は巡ってこないだろう。

杉坂よ、今こそ風になれ……!

私は地を蹴り、宙を舞った……。

………………。

…………。

……。

「ありがとうございましたー」

私は戦場を後にした。

「うわっ」

「お、お客様っ、危ないですから窓枠に登らないでくださいっ」

店内からは未だ続く戦いの声が聞こえてくる。

しかし……渚さんのお父さんは只者ではないな。いくら私でもあそこまではできない。

まぁおかげでそのどさくさに紛れてりえちゃんの写真もたっぷりゲットできたし。結果オーライってことで。

私は戦利品を胸にひとりほくそ笑んだ。

***

後日。

現像された写真を眺めてニヤニヤしている私がいた。

うーむ、ウェイトレス目的で来る輩が多いのもよくわかる。胸元が強調されてるし。

「ふーん、よく撮れてるね」

「でしょ。苦労したんだから」

「それで、胸元がどうしたの?」

「いやぁ、胸元が強調されててもりえちゃんはあんまり変わんないなー……ってあら?」

私の手から写真が引っこ抜かれる。振り向くと、背後に炎を背負ったりえちゃんが立っていた。

「没収」

「ああっ、そんなご無体な~」

「どーせ私は背も胸もちっちゃいですよっ」

「いや、それがいいんじゃないですかっ」

「嬉しくない!」

こうして、りえちゃんの可愛くてちょいエロいウェイトレス写真ゲット作戦は失敗に終わった。作戦など一度も実行しなかったんだが。

だがしかし! りえちゃんへの愛がある限り、第2第3の激写作戦が始まることだろう!

「始まらなくていいから」

――終わり。

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感想などをお題箱で伝えてくれたら嬉しいです!

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後書き

コミックラッシュ2007年12月号、CLANNADオフィシャルコミック第30回「帰り道の空白」のウェイトレスりえちゃんを見た勢いに任せて、書き殴ってみました。

一応これが習作……というか、まともに完成した初SSになるのかな?